青木ゆかさんの本が売れています。英語コンプレックスから脱したいひと向け。
『ずるい英語』と『なんでも英語で言えちゃう本』。イラストたっぷりの名著です。
2014年と16年の出版ですが、2019年のいまも新聞広告が出る。ロングセラー入りしたんですね。
正しい表現はひとつだけ という「思い込み」を捨てて、吹っ切れればいい。学習者に、そう呼び掛けています。
では何を使えば、長年の思い込みを捨てられるでしょうか。
わたしの英語生活をもとに、青木ゆかさんが触れていない実践ツールをご紹介しましょう。
思い込みをすてる「言い換える力」
2014年刊の『ずるいえいご』。ほんとは「すてるえいご」にしたかったけど、出版社が「それじゃ売れない」と意見して「すてるえいご」になりました。
何を捨てるか。「ひとつの日本語には必ずひとつの英語が対応している」「ただしい表現はひとつしかない」という思い込みです。
そして、そのために必要なのは「言い換える力」だ、と青木さんは言います。
長年の受験英語で刷り込まれた
「犬」はドッグ、「天気」はウェザー、「急ぐ」はハリー。日本語の単語には、それにあたる英語の単語があるんだから、その2つをペアで覚えていけばいいんだな……
……と日本じゅうの中学生が考えるわけですね。
単語帳や単語カードで「英語1語 ⇔ 日本語1語」の対応を記憶するよう仕込まれ、テストの答えも基本的に「正しい答えは1つだけ」の世界。
「キリン」って、どう言うんだっけ
青木さんがイギリスに留学中、動物園の話になりました。
「キリン」は英語で何だっけ? 単語が出てこず、落ち込んでしまった。
じゃぁ「リス」は? 「サイ」は?
英単語と和文訳語のペアを思い出そうとする。いや、そもそも英語で何て言うのか知らない。
そこで「すてるえいご」の登場です。
「ただしい単語」へのこだわりをすてる
青木ゆかさんのメソッドは、これです。
「キリン→ giraffe」
ではなく
「キリン→映像」
という順で、最初に頭の中にキリンの絵を思い浮かべます。
そして、その映像の中で英語にしやすいところを探し出して、それを伝えてみてください。
例えば
“A tall animal” 背が高い動物で
“Long neck” 首が長くて
“Yello” 黄色だよ
と伝えてあげれば、相手は「キリンのことかな?」とわかってくれます。(『ずるいえいご』66~67頁)
いったん、ただしい英語の giraffe をすててみようよ。ずいぶんラクになるよ。青木さんは、そう言いたいのですね。
イメージメソッドを実践してみる
言いたいことを頭のなかで映像(イメージ)にして、そのイメージを英語で説明してみようよ。
というわけで、青木さんはそれを「イメージメソッド」と呼んでいます。
直訳できなかったら、なんて言う?
たとえば「地球儀」。
“World map” 世界の地図
とか
“Like a ball” ボールみたい
とか、連想できませんか?(『ずるいえいご』34頁)
「まくら」は?
“When I sleep” 寝るとき
“Under my head” 頭の下に置く
“Like a cushion” クッションみたい
「冷蔵庫」は?
“In the kitchen” キッチンにある
“Big box” 大きい箱
“Cold food inside” 冷たい食べ物が入ってる
単語力より「説明力」
頭のなかのイメージを、こんなぐあいに描写・説明できれば、コミュニケーションは成立します。
「正しい単語」である globe や pillow や refrigerator を知らなくても、なんでも英語で言えちゃえそうです。
そのためには、単語力もさることながら、「説明力」をトレーニングする必要がありますね。
どうすればいいのでしょうか。
日本人が使っていない学習ツール
ここでわたしがお勧めしたいのが、初心者向けに作られた英英辞典です。
2つ挙げるとすれば
Collins COBUILD Primary Learner’s Dictionary (2018, HarperCollins Publishers)
「7歳以上の小学生向け」とあります。いい辞書ですが、発音表記はイギリス英語です。
Oxford Basic American Dictionary (2011, Oxford University Press)
こちらは同じレベルのアメリカ英語の辞書です。
ためしに giraffe をひいてみると
さっそく単語をひいてみましょう。
giraffe: a large African animal with a very long neck, long legs and dark spots on its body
「ひょろ長い首と長い脚があり、からだに黒い斑点がたくさんある大型のアフリカ産の動物」 (Collins)
giraffe: a big animal from Africa with a very long neck and long legs 「ひょろ長い首と長い脚の、大型のアフリカ産の動物」 (Oxford)
a large African animal と a big animal from Africa は、同じことを異なる言い方で表現していますね。
青木さん流のイメージメソッドにならってキーワードを抽出すると、
“African animal”
“Very long neck”
“Long legs”
ということになりそうです。
説明力の練習だ
では globe はどうでしょう。
globe: an object shaped like a ball with a map of the world on it 「ボールみたいな形で、表面に世界地図があるもの」 (Collins)
“Like a ball”
“Map of the world”
まさに青木さんが挙げたキーワードと同じですね。
青木流のイメージメソッドのコツを身につけるには、知ってる単語を英英辞典でひいてみて、どんな説明のしかたをしているか読んでいけばいいんですね。
まくら、冷蔵庫、どう説明する?
「まくら」は pillow ですね。ひいてみましょう。
pillow: a soft thing that you put your head on when you are in bed 「ベッドにいるとき、頭をのせる柔らかいもの」 (Oxford)
青木さんの説明キーワードと対比させてみると
“When I sleep” ⇒ when you are in bed
“Under my head” ⇒ you put your head on
“Like a cushion” ⇒ a soft thing
青木さんのイメージメソッドに、英英辞典はみごとに対応しています。
冷蔵庫 refrigerator はどうでしょう。(Collins は日常的に使われる fridge のほうを主見出しにしています。)
fridge or refrigerator: a large container that is kept cool inside, usually by electricity, so that the food and drink in it stays fresh 「大きな容れもの。ふつう電気をつかって中を冷えたままにしておき、中の食べ物や飲み物を新鮮なままにしておく」 (Collins)
refrigerator or fridge: a metal container, usually electric, which keeps food cold but not frozen 「金属の容れもの。ふつう電気をつかって食べ物を冷たく保つが、凍らせはしない」 (Oxford)
こうして見ていくと、ずるいえいごを実践するための「説明力」とは、関連するキーワードをひねり出していく力なのですね。
container, keep cool, inside, electricity, food, stay fresh
関連する語句を次から次へと思いつく力。
それをトレーニングするには、まずは数多くの「説明」の実例に触れることです。
まとめ
どんピシャの訳語を思いつかなくても、凍りつかないで、やわやわと関連語句で説明を繰り出す力。
それがあれば、青木ゆかさんの著書名にあるように「なんでも英語で言えちゃう」ようになりますね。
それを鍛えるツールとして、わたしがおすすめするのが初心者向け英英辞典です。
知らない単語を引くために使うのではなく、まずは「知っている単語をひいてみる」ことから始めてください。
市販の電子辞書のほとんどに採用されている英英辞典は、Oxford Advanced Learner’s Dictionary です。
これは上級者向けの英英辞典なので、いきなり使おうとすると挫折してしまいます。
まずは初心者向けの印刷版の英英辞典をおすすめします。
ちなみに、わたしがもっとも愛用している英英辞典は Longman Advanced American Dictionary ですが、もうすぐ新たな第4版が出るので品薄なのか、アマゾン価格がえらく高いです。これの1ランク下の難易度の Longman Dictionary of American English もお勧めですよ。